ぶらついた結果

あちこちぶらついた結果を記録していきます。週末は主に奥多摩歩き。

【輪読】里山林の生態系サービスを発揮するための課題と農村計画の役割

引き続きマイナーサブシステンスや複合生業関連の論文を読んでます。 本日は下記の論文に目を通しました。

奥 敬一「里山林の生態系サービスを発揮するための課題と農村計画の役割」, 2013

抄録

里山の森林は農村の生産物とは切り離され、今やその持続可能性はここ数十年間の深刻な劣化によって脅かされている。 その結果として、里山の森林が提供する様々な資源を農村に住む人々が享受する力もまた劣化してきている。 これ以上の劣化を防ぐために生態系が提供する資源・サービスを獲得する能力に注意を払うことが重要である。 資源を享受する能力とは「生態系を構成する要素に意味や価値を見出し、そこから生産物を取得することができる人々または社会の体系化された技術および思考」と定義することができる。 このような享受能力について分類し、それを回復するための戦略について議論する。

感想

生態系の持続可能性は、それを利用する人々の営みと密接に関連していることを「生態系サービスの享受能力」という観点で簡潔にまとめられている、という印象を持ちました。 地方の限界集落問題に関して度々見かける議論で「農村の人々を都市近郊に(半ば強制する形でも)移住させた方が良い」という主張を目にすることがありました。 その主張に関して抱いていた違和感を「享受能力」によって説明することができそうです。 つまり集落を捨てることによって、そこにいた人々の生活は持続することができるかもしれないが、残された里山の生態系は無価値なので切り捨てる、という判断をしていることになってしまうと言えそうです。 限界集落問題を考える上で、その土地の資源を消費し、再生産する道がないのか、もっと模索して行きたいと私は思います。

本論文での終盤、享受能力回復のための方策と農村計画の役割についての章では、地域の享受能力への経済的優位性の付与、文化的価値の付加やさらには外部NPOとの連携などの提案がありました。 里山の資源を享受すること、この今日的なあり方と経済的にも持続的な方策を考えることが今後の課題だと言えそうです。